新数学スタンダード演習とやさしい理系数学は、どちらも数学の実践力を磨くための定番参考書です。
取り上げている問題も殆ど同レベルですが、その作りは全く異なるため、選択には結構迷うものです。
そこでこの記事では、両者を比較した上で徹底解説していきます。
演習用の参考書としてどちらにしようか迷っている方は参考にしてみてください。
なお、当記事は該当する参考書の実際の活用経験に基づき執筆しています。
新数学スタンダード演習とやさしい理系数学の共通事項
問題の質とレベルについて
新数学スタンダード演習(以下スタ演とよぶ)は IAⅡBとⅢ の2分冊となっている一方、やさしい理系数学(以下やさ理とよぶ)は1冊にまとまっています。
問題の質やレベルではどちらも実践力養成という点で、それほど変わりません。
「やさ理は問題が古い」との意見もあるようですが、数学の実力養成という点からすれば、その本質に影響するほどではありません(最終的には志望校の過去問研究をすれば済むことです)。
結論的には、どちらも標準的な入試問題を解くための個々の解法技術や典型問題に対する解法パターンは、一通り身についていることが前提です。
その上で、問題の中の隠れた核心部分を見抜き、それに対して適切な技術や道具を選んで正しく活用していけるように訓練していきます。
言い換えると、(仮に問題が解けなくても)解説を読んでピンとこなかったり、「そうか、そうだったのか!」と反応できないようでは厳しいということです(特にやさ理)。
学習上の位置づけについて
上で述べたレベルからしても明らかですが、教科書をマスターした程度では足りず、入試問題を解くための足場が固まっていなければなりません。
具体的には、「1対1対応の演習」もしくは「青チャート」を一通り仕上げておくことが必要なのです。
特に、スタ演は「1対1対応の演習」からつなげられるようにできていますので、時間に余裕がある人は、このルートで取り組むとよいでしょう。
このスタ演もしくはやさ理まで仕上げれば、通常の受験準備としては完成と考えてよいと思います(あとは過去問演習へと進みます)。
なお、数学で上位を狙ったり、志望校の出題傾向の関係上難問対策が必要なら、この上の「新数学演習」ないし「ハイレベル理系数学」をお勧めします(ただし、使える人は極めて限られるし、通常の受験生にはお勧めできない)。
両者の違いについて
確かに両者の問題の質・レベルは基本的に同じですが、参考書としての作りは全く異なります。
結果的に、参考書の選択に際しては注意が必要なうえ、人によって向き不向きが生じてきます。
両者の主な違いは次の通り(特に2番目は注意)。
- 問題数・分量が異なる(スタ演は全部で2分冊、やさ理は1冊)
- 解答解説に対する方針・考え方が異なる
こうした点を踏まえ、それぞれについて相対的な観点から以下順次解説していきます。
新数学スタンダード演習の特徴
全体的なレビュー
分量 | 問題総数約450問(分冊ごとにIAⅡB:300問、Ⅲ:150問ほど)分量は多め |
解答・解説 | 一つのオーソドックスな解法を丁寧に解説。発想や着眼点にも触れている |
向く人 | 実践練習の量をこなしたい人で、かつ数学演習に十分時間を充てられる人 |
スタ演は(やさ理に比べ)非常に分量が多く、解説も丁寧です。
なので時間のある人が演習量をこなしたい場合に向いています。
やさ理との質的な違いは、ズバリ解説。
問題解決のためのちょっとした発想や着眼点についてコンパクトに触れられています。
特に「1対1の演習」を経てきた人には有用でしょう。
ただし別解はあまり多くはありません(普通は1つのオーソドックスな解法のみ)。
使い方と注意点
とにかく分量が多いです。
進めるペースとしては、1日4~5問(時間にして1日2時間ぐらい)やって、1周に3ヶ月ぐらいかかる計算です。
2周目以降は、できなかった問題を中心にしていきますので(個人差がありますが)仕上げるのに4~6ヶ月ほどでしょうか。
過去問研究の時間も考えると、現役合格を狙うのであれば、高3の秋(11月)ぐらいには仕上げておきたいものです。
そこから逆算すると、1学期中に「1対1」なり「青チャート」を終わらせ、遅くとも夏休みが始まる頃には着手することになると思います。
また、スタ演Ⅲの微積分の分野は「1対1」とあまりレベルは変わらないので、得意な人は、ここは割愛してもよいでしょう。
ただし、特に最後の方の実践演習<総合問題>はそれなりのレベルで、しかも良問なので必ず取り組みましょう。
注意すべきは、時期的に厳しいなら、無理はしないこと。
その場合は「1対1」等を完璧にして過去問に進みます(それで標準的な入試は十分合格点が取れます)。
万一浪人することになっても、「1対1」がしっかりできていれば、後々飛躍的な学力向上が期待できます。
なお、くれぐれもこのスタ演で解法パターンの訓練をしないように。
道具がそろっていない(解法パターンが身についていない)段階で取り組んでも解答を単に暗記するパターンに陥ってしまいます。
解放パターンの訓練自体は「1対1」や「青チャート」でしっかりやっておきましょう。
あと、最初に自分で解く際、考える時間は長くても30分までにします。
それでもできなければ、解答解説をしっかり読んで、2周目以降に再現できるように復習に力を入れてください。
やさしい理系数学の特徴
全体的なレビュー
分量 | 問題数200問(例題50問、演習150問)分量は少なめ |
解答・解説 | シンプルな模範解答を複数紹介/発想や着眼点については自力で思いつくことが前提 |
向く人 | 時間が限られ、比較的少量の演習とシンプルな解答解説を求める人(注意点あり。以下参照) |
こちらの参考書の特徴は、少数の厳選された問題に対して、模範解答風のシンプルな解法を複数提示していることです。
特に注意したいのは、スタ演と比べて、発想や着眼点の記述は少なめという点。
しかもそのシンプルな解答も受験指導のプロが作るレベルです。
なかなかそれだけで「なるほど!」と納得できる人は多くないと思います。
また、問題数が少ないからこっちが近道ではないか、と思う人もいるかもしれません。
でもそう簡単にいかないのが「やさ理」のコワいところ。
ですので、次はこうした点を中心に解説していきます。
使い方と注意点
使い方自体については特別なことはありません(基本的にスタ演と同じです)。
考える時間は長くても25~30分までにするとともに、できなかった問題を中心によく復習します。
分量的には、スタ演の3分の1ほどですから、時間も労力もその3分の1となるでしょう(単純計算では)。
なお、例題は(演習に入る前の)前哨戦として有用であるが、「1対1」のようにはいかないので注意のこと。
この参考書は決して超難問などではなく、むしろ数学の本質を突いた良問ばかりなので、(最終的には)このくらいは何とか解けるようになってほしい、と個人的には思います。
他方で、(問題のレベルではなく)解説を通じた学習効果という点では、スタ演と同列にするのは困難です。
結論的には、自力で多少なりとも解答に近づけるだけの実力(模範解答どおりでなくてもよいが、とりあえず解法の着眼点ぐらいは思いつくレベル)が求められるということです。
スタ演以上に、向き不向きが顕著に表れる参考書と言えるでしょう。
ですので「1対1」や「青チャート」が、やさ理に通用しないと感じられた人は、スタ演に変更するか、(時期によっては)「1対1」等に徹して復習し直すことを勧めます(そしてそのまま過去問研究につなげればよいのです)。
おわりに
スタ演とやさ理について解説してきましたが、あなたはどちらが向いているでしょうか。
とにかく参考書の学習効果は”個人差”が出やすく、同じ方法でしかも同じ労力を費やしても、同じ効果や結果がついてくるとは限りません。
特にこの2冊の参考書は、問題は同レベルなのに作りが全く異なるため、その選択次第で後々の結果は更に変わってきます。
ですので、この記事を読んでくださった皆さんも、ご自身と向き合い、自分に合った参考書にじっくり取り組んでいただきたいと思います。
お疲れさまでした。