化学は理論に加え膨大な知識が絡み合っています。
それゆえ参考書を通じての勉強に困難を感じる人も少なくありません。
ですが、心配ご無用!
順序正しく適切な参考書を活用していけば、たとえ独学でも難関突破は十分可能です。
この記事では、それを実感していただけるよう、おすすめ参考書(本)ルートを徹底解説していきます。
・早稲田大学理工学部中退、慶應義塾大学経済学部卒業
・特許業務に従事する傍ら、主に大学受験用参考書の調査・レビューも行う(その数、通算100冊以上)
化学の勉強と参考書(本)について
勉強の特徴~化学は知識の総力戦である~
化学の勉強は、皆さんご存じのように
- 理論化学
- 無機化学
- 有機化学
の3分野から成り立っています。
参考書についても、この3分野を考慮しながら3分冊になっているものが少なくありません(ただし、辞書的な分厚いものですと、あえて1冊にまとまっているものもあります)。
他方、勉強が進んでいくとわかりますが、一つのテーマや問題を扱う上でも、他の分野の知識が必要になってくることがあります。
例えば、理論化学の問題を解くのに無機化学の知識が必要になったりするのです。
つまり、化学の勉強は、本来的には知識の総動員が求められます。
参考書での勉強の留意点
もちろん、初心者向けのわかりやすい入門書は、そうした知識の総動員をしないで済むようにできています。
ですが、やはり解説としては深く踏み込めなかったり、便宜的な説明にならざるを得ません。
結果、暗記学習の色が濃くなってしまうのです。
それゆえ、わかりやすい入門書は「本質をついてない」などとレビューされたり、逆に、厳密にしっかり説明しようとすると、「初心者向けではない」とか「わかりにくい」などとなってしまいます。
そこで化学を学習する側としては次の点に留意しておきます(特に初学者)。
- ある程度の暗記は避けられない(英単語のようなものです)
- 最初から全て分かる必要はない
- 今はわからなくても後になってわかる(知識がつながる)こともある
- 他の参考書や問題演習等で理解が進んだり、知識が整理されたりする
要するに、最初から1冊で全てをマスターすることは不可能であるし、その必要もないということです。
言い換えると、もうワンランクの上の参考書でさらに深くやり直したり、問題演習を通じて理解や知識の整理をしていくことになります。
化学の参考書(本)ルート
具体的なルートについて
最初に基本的な参考書ルートを示しておきます。
【インプット】
「岡野の化学が初歩からしっかり身につく」(2分冊:シリーズ)+ 「大学受験Doシリーズ」(3分冊:鎌田理論・有機、福間無機)
又は
「照井式解法カード」(理論化学・無機化学・有機化学の3分冊:シリーズ)
※以上とは別に(化学基礎だけであるが)「鎌田の化学基礎をはじめからていねいに」でスタートしてもよい。
【アウトプット】
「化学重要問題集 化学基礎・化学」 +(余裕があれば)「化学[化学基礎・化学] 標準問題精講 」+ 「チャート式シリーズ新化学」もしくは「化学の新研究」(辞書的参考書)
又は
「化学の新演習」 + 「化学の新研究」(辞書的参考書)
※アウトプットのルートの目安として、2つ目のルートは偏差値60以上が望ましい。
インプットについて
インプットについてコメントしておきます。
上で述べたように、参考書は分冊になっているものが多いですが、できれば同じシリーズ、もしくは同じ著者のものを使うことをお勧めします(例えば岡野先生なら同じ岡野先生のシリーズ2冊を使う)。
また、「鎌田の化学基礎をはじめからていねいに」 は、非常に優れた入門書ですので、これでスタートして次にDoシリーズにつなげてもよいと思います。
更にいえば、「照井式解法カード」を使う場合でも、先ずは「鎌田の化学基礎をはじめからていねいに」 を読んでおくことで、一層の理解が進むでしょう。
アウトプットについて
演習についての補足です。
一般的には「化学重要問題集」で十分ですが、できれば(難関校志望者は)「化学[化学基礎・化学] 標準問題精講」の追加演習をお勧めします(比較的少ない良問が厳選されているうえ、解説がとにかく逸品!)。
また、難関校対策としては「化学の新演習」が有名ですが、通常の受験生が(インプット直後から)いきなり入るのはハードルが高いような気がします。
他方「化学の新演習」と「重要問題集」との掛け持ちはオーバーワークですので、ご自身の実力や志望校、化学に費やせる時間との兼ね合いで決めてみてください(「新演習」の方は問題をセレクトして取り組むことも可)。
なおアウトプット段階では、辞書的に「チャート式シリーズ新化学」もしくは「化学の新研究 」を用意しておきます。
演習では、新たに調べたり、内容の確認をしながら進めることが多いです(化学では、演習で新しい知識が加わることも少なくない)。
おすすめ参考書(本)&レビュー
岡野の化学が初歩からしっかり身につく
レベル | 易~普 |
メリット | ・初心者にもわかるように丁寧に解説がされ、かつ基本的事項が整理されている ・暗記すべき事項が強調され知識を次につなげている |
デメリット | ・初心者用であるがゆえ、深く細かな内容についてはワンランク上の参考書が必要 ・計算問題に対しては不足気味 |
初心者向けの参考書の定番です。
とにかく初心者向けだと、なかなか突っ込んだ内容が書けないものですが、それでもこの参考書は必要な基礎事項はしっかり網羅されているといえます。
ですから、初心者は、最初の一歩として先ずはじっくり取り組んでみることをお勧めします。
総合的な観点からみても(他の入門書と比べ)安心して取り組めるのではないかと思います。
ただし、計算問題等に対する練習や本格的な受験対策は、これでは足りませんので、そのつもりで。
大学受験Doシリーズ 鎌田の理論化学の講義
レベル | 普~やや難 |
メリット | ・入門書を終えた次にやるとよい ・入試を想定しており、実戦を踏まえたインプットができる |
デメリット | ・全くの化学初心者には少しキツイ |
入門で学んだ知識等を受験対策につなげるのに適しています(入門書そのものではないので、前提となる土台や知識がある程度、備わっているのが望ましい)。
化学の入門書というより、あくまでも入試のための実戦を念頭にした参考書と言えるでしょう(受験テクニック的なところあり)。
ズバリ、知識(基礎)はあるが試験問題を解くとなるとキツイという人に向いていると思います。
大学受験Doシリーズ 鎌田の有機化学の講義
レベル | 普~やや難 |
メリット | ・有機の基礎から実践まで網羅している ・単に暗記ではなく、その理屈を簡潔かつわかりやすく解説している ・わかりやすが、決して厳密性や本質を損ねていない |
デメリット | ・化学の入門基礎は別の入門書で勉強しておくこと |
有機の参考書の中では、これの右にでるものはない、といえるぐらいの完成度の高さです。
有機化学は暗記と構造式の推定に終始しがちですが、この参考書は一線を画します。
とにかくわかりやすい一方、無駄がなく、しかも実践重視です(入試問題を用いて解説しています)。
また、非常に上手く整理されているため暗記がしやすいところも特徴です。
わかりやすさを追求しようとすると、厳密性や正確性がある程度犠牲になるものですが、この参考書は厳密性とわかりやすさのバランスを極めています。
大学受験Doシリーズ 福間の無機化学の講義
レベル | 普~やや難 |
メリット | ・単なる暗記だけでなく、考え方をしっかり解説している ・また、その暗記を効率的にできるように工夫されている |
デメリット | ・基本的事項は他の入門書等で学んでおくこと |
無機化学は暗記する量が膨大で、受験生に相当の負担をかけるところです。
本書は、その負担を最小限に抑えるように工夫が凝らされています。
しかも単に暗記するだけではなく、その考え方についてもしっかり解説しています。
また、先の 「鎌田の有機化学の講義 」と同様、実戦重視で入試問題を活用しています。
つまりこれもアウトプットとの橋渡しになるように作られています。
個人的には、このDoシリーズが完璧でかつ偏差値60を下回らなければ、アウトプットは「化学の新演習」にもつなげられるのではないかと思います(特に難関校志望者)。
照井式解法カード
レベル | 易~やや難 |
メリット | ・丁寧に解説されており、カラーでとても見やすい ・解法カードが整理・暗記にとても役立つ ・特に無機化学を扱った一冊が優れている |
デメリット | ・解説は丁寧であるが(Doシリーズと比べ)やや冗長的である(それゆえ分量が多め) ・発展的な内容が少なく、入試の実践対策としては弱い |
先のDoシリーズと並ぶ(比べられる)定番ものの一つです。
Doシリーズとの比較も兼ねますが、丁寧である反面、簡潔さに欠け冗長的に感じるかもしれません(無機化学編を除く)。
内容的には、基礎な事項の習得を重視している反面、発展的な内容や入試対策については不足気味といえます(この点もDoシリーズに軍配が上がる)。
ただし、これでも「化学重要問題集」には十分つなげられる内容になっています。
また、初心者レベルのことは詳しく書かれていないので、(特に初心者は)できれば次にあげる 「鎌田の化学基礎をはじめからていねいに」 を読んでおくことを勧めます(もちろん学校の教科書等で入門・基礎をやっている人は、直接この「照井カード」に入っても十分OK)。
なお、この3分冊の中でも無機化学の分野を扱った一冊が特に逸品です。
レイアウトが上手くまとめられているうえ、あの膨大な知識を効率よく暗記できるように工夫されています。
鎌田の化学基礎をはじめからていねいに
レベル | 易~普 |
メリット | ・初心者でもわかりやすく解説している ・わかりやすさを重視しているが、決して正確性・厳密性を損ねているわけではない |
デメリット | ・化学基礎分野にとどめている ・当然ながらこれだけでは入試対策として足りない |
鎌田先生の著作は、わかりやすさと厳密性・正確性のバランスをとっているものが多いです。
この参考書もその一つですが、入門書でそれを成し遂げているのですから見事です。
しかも、簡潔に書かれていて無駄がない!
通常、わかりやすくかつ楽しそうに(?)書こうとすると、内容が表面的となり、結局、単なる暗記学習を強いることになりがちです。
化学基礎の範囲だけですが、そんなに分量はないので徹底的に読み込んでみてください。
基礎は出来上がるはずです。
ここに書かれている内容がマスターできれば、後が楽!
勉強も真の意味で楽しくなります。
化学重要問題集 化学基礎・化学
レベル | 易~やや難 |
メリット | ・網羅性に優れ、化学の一通りの論点を演習できる ・解説がわかりやすくまとめられており、インプットの補充・強化もできる |
デメリット | ・分量が多く時間がかかる |
一般的な演習書の定番です。
基礎から標準、さらにはやや発展的な問題も一部取り入れています。
特に理論化学を中心に、インプットではわかったつもりでも、いざ自分でやってみると手こずる問題が少なくないと思います(計算、理論ともに)。
また、この問題集を取り組むことで新しい知識を得ることも多いでしょう。
解説も優れており、インプットの理解を深めたり、補充したりできます。
ですので一度で仕上げようとするのではなく、繰り返し演習していきましょう(できなかった問題を中心に3周はしたい)。
なお、「新演習」との選択ですが、化学はそれほど得意でないという人(例えば偏差値60未満)は、背伸びをせず、こちらを完璧にすることをお勧めします(「重要問題集」でも難関校にも結構通用します)。
化学[化学基礎・化学] 標準問題精講
レベル | 普~難 |
メリット | ・とにかく解説が逸品。厳密性とわかりやすさを見事に両立! ・量より質を重視する作りとなっている(「化学の新演習」の約3分の1の分量) |
デメリット | ・有機を中心に演習量がやや不足気味 |
先ほどの鎌田先生が著作者の一人になっています。
その特徴は、ズバリ、厳密性とわかりやすさとの両立です。
しかも、本書は量より質を重視した参考書で、分量は「化学の新演習」の3分の1ぐらいの量です。
厳選された良問を取り入れつつ、本当にわかりやすく丁寧に解説されています(曖昧になりがちな有効数字についてもしっかりしています)。
ただし、有機を中心に演習量が不足しがちなので、別の問題集等でフォローが必要です(化学はある程度、量をこなすことも大切)。
化学の新演習
レベル | 普~難 |
メリット | ・難しめの問題が豊富で難関校対策ができる ・難問ばかりでなく、重要な標準問題も十分そろっている |
デメリット | ・分量が多すぎて、中途半場な基礎学力では挫折する(時間と労力の無駄になる) ・有効数字の扱いに少し無頓着ではないか ・改訂版は誤植があるとのこと |
難関校対策の定番です。
難しい問題が多いですが、重要な標準問題もそろっています。
したがって、しっかりした基礎がある人(例えばDoシリーズが完璧かつ偏差値60以上等)は取り組んでもよいでしょう。
逆に言うと、こうした基礎ができていない状態で手をつけても、まず分量的に挫折する可能性が高いし、学習効果もほとんどありません(基礎的理解に欠けたままの、ただの暗記に終わってしまいます)。
他方で、基礎学力が十分あっても、未知の事項が色々とでてくるかもしれません(化学の勉強はそれが普通です)。
ですので、辞書的参考書「化学の新研究」を活用しながら、常に調べたり確認したりしながら演習を進めることになります(こうした点は必ずノートにまとめ、1週間以内に復習すること)。
やはりこの問題集も、できなかった問題を中心に3周はしたいもの。
時間的に厳しいようなら、問題を半分にセレクトしたり難問(★3つの問題など)はカットします(全部やる必要はない。繰り返しが重要です)。
チャート式シリーズ新化学
基本的な事項が網羅されている(辞書的)参考書です。
教科書に沿ったオーソドックスな内容ですので、基本的なインプット段階から役に立つはずです(わかりやすいインプット教材を用いても、100%完全に理解できるとは限らないため)。
「重要問題集」の演習のお供にも使えるでしょう。
他方「化学の新演習」に対しては役不足かもしれません(ですので「新演習」のお供には、次の「化学の新研究」を使おう)。
注意すべきは、これをインプット教材として隅から隅まで読むようなことはしないこと。非効率的で学習効果はありません。ましてや、これをノートにまとめるのは時間の無駄です。あくまで辞書として活用すべきです。
化学の新研究
こちらも辞書的参考書です。
「新演習」のお供としてよく使われています。
ここで調べたことはノートに整理してよく復習をすること。
また、隅から隅まで読むようなことはしないこと。
あと強いて留意すべきは、チャート式よりも内容が細かく発展的な内容が含まれている点です。
通常のレベルの受験生が立ち入っても(勉強した気になるだけで)知識を使いこなせるかは不透明です。
ですので、不必要に読み込むのではなく、あくまで「化学の新演習」の補足・確認用として活用しましょう。
おわりに
おすすめ参考書とそのルートを解説してきましたがいかがだったでしょうか。
難関突破に向けての一つの王道を示したつもりですが、その効果や結果には個人差が出ることは避けられません。
とはいえ、真摯にかつ適切なやり方で勉強に取り組めば、自分に合った勉強法なり参考書の使い方なりが見えてくるものです。
そうなったらしめたもので合格は目前といえるでしょう。
実は、この記事の狙いはそこにあるのです。皆さんが自力で勉強していけるようになるまでの道案内をしてきました。
次は皆さんが後進に道案内をする番です。
それが実現できるよう是非頑張ってみてください。